深海魚の顔をした人(詩⑨2020年11月)

 

 

ひるすぎ布団にねていたら

 

 

ひるすぎ布団にねていたら
涙がぽろりとながれたよ
何にもおもってなかったけれど
光がさしたきがしてね

光がさしたきがしてね
ながれる涙はさらりとおちて
布団がそれをすっちゃった

じわじわ町がちかづいて
しずかにゆっくり動きだし
ぼくもそのなかとけてゆく

なみだの跡がかわいても
そのままじっと寝ころんで
さっきの光を
さがしてめぐる
めぐる めぐる めぐる

さがしたけれど
それはない
涙といっしょに
きえちゃった

ぼくは
起き上がって
生きなくちゃならない

 

 

 

語り得ない人生は

 

 

どれだけ多くを 語り合おうと
自分ひとりで 背負って来て
自分ひとりで 背負ってゆく以外 ないものを
背中に 肩に 指先にかんじる

人生そのものは語り得ない
人生そのものは ただ
のしかかっている
指先にまで 満ちている

その荷を下ろすことも
開いて見せることもできない

背負いつつ歩いて来た
一歩一歩が あるだけで
その一歩ずつは
語りたくもないし
思い出したくもない

道の途中に 置いてきぼりに
忘れてしまって

笑い飛ばして
はしゃぎ合う方が よくないか

どうせまた一人
背負ってゆく他 ないんだもの

 

 

酔い醒めの帰り道

 

酔いの冷めてゆく帰り道
ひとりぼっちで
明日の待つ家へと 歩いてく

あきらめたような
静けさと 暗闇

吐き出された ため息の重さが
心地よくって

渦を巻く孤独は
あたたかく
わたしを迎える

ようやく 故郷に
帰り着いた

ベッドに横たわり
目を閉じるとすぐ
眠っている

明日の世界が
わたしを呑み込み始めたら

トンネルの先に待つものを
知っていても なお

 

 

 

不発弾

 

沈んで 沈んで
浮かび上がりたくない

二度と日など昇らずに
深まれ 深まれ
深まれ行けよ
夜よ 闇夜よ

 

深まり続ける
底無しの夜に
すべてが凍ってしまっても

それより どうか
どうか どうか

ぼくを底から
引き揚げないでください

ぼくに
ふれないでください

ぼくはここに ひとりぼっちで
しずんでいたいのです

遠い遠いお空の上から
海底にまで届く
この
かすかなひかりだけで
十分なのです

だから
どうか どうか

触れないでください

引き揚げないでください

 

 

 

あぶくの音の聞こえる場所で

 

また私は 落ちてきた
ここに
この部屋に
ひとり みじめに

宛てもなく なにかを求め
深海の底に 沈んだような

あぶくの音の
聞こえるような しずけさに

酒も飲まず
音楽も聴かず
言葉を記すペン先が
さびしく鳴っているだけの
この部屋に

私は また
落ちてきてしまった

 

落ちたからには この砂に
ヒトデも恐れて にげだすような
かなしい言葉を置いてから
浮かび上がりたい

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ABOUTこの記事をかいた人

20代。早稲田大学を卒業。大学時代に生きることに悩み、哲学書・宗教書・文学書を読み漁った結果、頭だけで考えても仕方ないと悟り、臨済禅の坐禅道場で参禅修行を始める(4年間修行)。 2020年に(カトリック)教会で洗礼を受ける。 路上お悩み相談(コロナ禍によりお休み中)や、SKYPE相談・雑談、コーチング、生きねば研究室など、一対一の本音で対等な関わりを大切に、自分にできることをほそぼそとやっています。